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に開催したオンラインのトークセッション『紀南ケミストリー・セッション vol.3』
白熱のセッションを文字起こししたテキストアーカイブの後編となります。

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『 道をめぐって – 移動が生む社会、文化の変化 –  』(後編)

【4】情報発信の方法

宮津:
SNS、ブログ、絵地図など、植野さんと坂本さんは、様々な方法を用いて熊野古道や他の道の紹介をされています。まずは、植野さんに「何故、絵地図で道の魅力を紹介するようになったのか?」ということをお伺いしたいと思います。また、絵地図を制作するときのポイントや、制作の際に苦労されたことがあれば、お話しいただけますでしょうか?

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(わがらの紀伊勝浦駅お散歩まっぷ 画像)

植野:
まず、「何故、魅力を伝えるための媒体を絵地図にしたのか?」というところからお話しします。

元々、私は写真と文章という形で情報発信をしていました。でも、私には、伝えたいことが増えれば増えるほど、文章が長くなってしまうという癖があったんです。私の中で文章での紹介に限界を感じ始めたときに、たまたま、絵地図作家をしている友人の作品を見る機会がありました。友人が描いた絵地図を一目見ただけで、私はその魅力に惹かれてしまい、独学で絵地図の勉強を始めることにしました。最初は大変でしたが、現在では、絵地図作家としてお仕事が頂けるまでになっております。

私が情報発信の中で特に重視しているのは、「自分が感動した部分」や「大変だった部分」を強調することです。写真と文章で情報発信をしていた頃は、あれもこれもと詰め込んでしまい、文章が長くなるという問題が発生していました。しかし、絵地図であれば、どのような内容でも包み隠さず表現することができるんですよ。例えば、「国道で、ただ何もない道が2km続く」という情報は、一見すると、これから歩き旅をしたいという人には要らない情報かもしれません。でも、歩き旅には絶景を楽しめる区間や、美味しい食べ物に出会える場所がありますので、これらを全て合わせて、道は「移動空間」だと捉えることができます。私が文章を書いたときに無になってしまった部分も、絵地図であれば惜しみなく表現でき、全てありのままでお伝えできるというところが、絵地図の魅力だと思います。

現在、画面に表示されている絵地図には、文章も入っています。「ここは素晴らしい!」という文章も入れることもできますし、何も書かずに絵だけを出すこともできますので、絵地図は、自分の感じたことを柔軟に表現できる方法だと思っています。

宮津:
植野さんの絵地図は、まさに鳥瞰図だと思いますが、実際にどのように制作されているのかが気になります。各地域をドローン撮影する、あるいは、上空から景色を見るということはされているのでしょうか?

植野:
いずれは、自分でドローンを飛ばしてみたいと思っていますが、まだそこまではできていません。現在は、私が愛用している「2万5千分の1の地形図」をベースにして制作しています。地形の傾斜角度などは、この地形図から計算して割り出しています。

宮津:
なるほど。実際に自分の目でご覧になった風景と、地形図を頭の中で合成しているのですね。そのような意味では、植野さんの絵地図は「脳内ドローン」を使って制作されているような感じがします。

植野:
脳内ドローン、すごくいい言葉ですね!

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宮津:
坂本さんは、どのような部分にポイントを置いて、SNSやブログで熊野古道の魅力を紹介をされているのか、お話を頂きたいと思います。

坂本:
私も植野さんと同じで、自分で体験したことをベースに記事を書いています。インターネットには様々な情報があって簡単に入手できますが、熊野古道に関しては「実際に歩いていない人が書いている」というブログも結構見受けられます。これは、普段から熊野古道を歩いている人が見るとすぐに分かることです。ブログの中には古い情報が載ったままの記事もあり、これから熊野古道を歩きたいと思っている人にとっては、非常に不親切なものだと思います。だからこそ私は、嘘偽りない形で、自分で見たものを書きたいと思っています。ブログの内容は、私が色々な場所に出かけて、歩いてきたという記事が中心になっています。今後は、宿泊施設や飲食店の情報も少しずつ掲載していきたいですね。

現在、私は田辺市本宮町に住んでいますが、紀伊半島の真ん中にいるということは「紀伊半島内のあらゆる場所に行きやすい」ということでもあると思っています。そのような意味では、熊野古道だけではなく、紀伊半島内の様々な情報を一番更新しやすい場所にいるのかもしれません。

宮津:
ブログの記事で使われている写真は、坂本さんが撮影されたものでしょうか?

坂本:
基本的には、自分自身で撮影したものを使っています。時には、道中に出会った方に、夫と2人で写っている写真を撮っていただくこともあります。わざわざ取材に行って撮影するということはせず、道を歩いている途中で景色を撮影して、歩いて、食事をして、また歩いて、ということの繰り返しです。プロのカメラマンは星の数ほどいますので、綺麗な写真を撮るという仕事はプロの方にお任せして、私自身はリアルな旅の姿を撮影したいと考えています。

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宮津:
綺麗な写真よりも、旅の様子がより分かる「自然な写真」を撮影するということでしょうか?

坂本:
そうですね。旅行の写真だと思っていただいても構いません。私としては、人物が入った方が面白い写真になると思っていますので、時折、私たち夫婦の写真も記事に掲載しています。

出典:坂本このみ「伊勢路&大辺路300㎞の旅はじめます」(、熊野ログ|紀伊半島の参詣道とウォーカーのための情報サイト)

宮津:
こちらの写真には、平安時代の旅人のようなお二人が写っていますね。こちらは、貸衣装のようなものなのでしょうか?

坂本:
熊野本宮大社の近くに「熊代屋※」という貸衣装のお店があります。約3週間かけて伊勢路を歩き、本宮まで戻ってきたときに、2人で一緒に平安衣装に着替えました。伊勢を拠点として活動している「人力車にじいろ」の北原美希さん※という俥夫(しゃふ)※6の方に、人力車を引っ張っていただいて、ゴールの「大斎原(おおゆのはら)※」に到着しました。

※6 人力車をひくことを生業(なりわい)とする人のこと。

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宮津:
こちらが、お二人が人力車に乗って大斎原を目指しているときの写真ですね。

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実は、このときはまだ、夫と結婚するどころか付き合うとも思っていなかったんですよ。

宮津:
なるほど!これは、まさに未来を予見したような出来事ですね(笑)

坂本:
本当に不思議なことだと思います(笑)

宮津:
貸衣装ではありましたが、実際に平安衣装を着用されていかがでしたか?

坂本:
実は、この平安衣装は歩くための衣装ではありませんでした。私が着用したのは赤い着物でしたが、本来は白装束を着て歩くんですよ。聖地・熊野を訪れるのは、まさに「蘇りの旅」を意味しますので、本来であれば、華やかな色のお洋服は着ることはありません。

ちなみに、昔の人は1日2足のわらじを履き潰して歩いていたそうです。「二束三文」という言葉の語源でもあります。でも、わらじでは、とても歩けるとは思えませんね(笑)

絵地図に何を描くのか?

宮津:
普段、植野さんと坂本さんが情報発信をされている、絵地図やブログを見ながら、お二人から発信のポイントや苦労している点、楽しい点をお話しいただきました。

毛利先生、今のお二人のお話を通して、メディア論、あるいは、風景や写真を撮ることといった「風景論」についてお話しいただけますでしょうか?

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植野さんの絵地図は絵がすごく素敵で、改めて面白いと思いました。本来、地図は「どこから読むのかが決まっていないもの」だと思いますが、恐らく、描く側もどのように描くのか決まっていないのではないかと、私は考えています。植野さんは、強烈な経験や描きたいことをとにかく描くというスタイルであり、出発点を決め、目的地や通過点を順々に描くというやり方はしていません。植野さんがこのような制作方法を実践できるのは、普通の地図を描くときとは違った「記憶へのアクセス」を行っているからだと思います。前から順番に何かを思い出すのではなく、描きたいと思う場所の「記憶」にランダムにアクセスしている。そして、「記憶」として浮かび上がった情報を掛け合わせながら、絵地図を作っているのではないかと感じました。

植野:
まさに、毛利先生の仰る通りですね。「自分が描きたいと思う場所を、絵地図の中にランダムに入れて描くことができる」ということが絵地図の良さですし、毛利先生のお考えが、私の中ですごくしっくりきました。私自身、伝えたい情報を上手くまとめきれないタイプなんです。でも、この性質が逆に、「絵地図」という形で表現することに合っているのではないかと思っています。

毛利先生がお考えのように、地図は「どこから読むか決まっておらず、色々な方が自分の好きな視点で見られるもの」だと思います。実は、私が絵地図を作るとき、空いている場所に色々な情報を詰め込もうとしてしまいがちなんですよ。あるときから「これでは、絵地図を見た人が、自分なりの楽しみ方ができないのではないか?」と疑問を抱くようになりました。だから、最近では、色々な方が自由に想像できる余地のある地図として「絵地図塗り絵」を作っています。色を一切塗っていない、白黒の地図です。自分の好きな色に塗る、あるいは、自分でコメントを書けるような「自由度のある絵地図」を楽しんでもらえればと思っています。

また、私も絵地図の中に、感動している人や楽しんでいる人を登場させたいという気持ちがあります。実は以前、絵地図の中にキャラクターイラストを描いていたのですが、周囲から「あなたの描く人物は癖がありすぎる」と言われたんです(笑)。どうも私は人物の顔をリアルに描く癖があり、「どうしても人物の表情が気になってしまう」というようなことを言われました。だから、今はあまり人物を書かずに、フキダシだけで感情を表現させています。

毛利:
地図の良いところは、一目見たときに様々な情報がすぐに目に入ることですね。でも、実際は「鳥の目のように上手く空間を捉える」ということは難しいと思います。

植野:
「あれもこれも描きたい」という思いを、文字無しで表現できるのが絵地図なんですよ。ただ、実際に自分が描いているときと、1ヶ月後に作品を見直したときは、全然違う視点で絵地図を見ることになります。当然、最初に描くときには100%の力を出していますので、描いたものを後悔することは決してありません。それでも、描いたときの自分と、1ヶ月後の自分が、全く別の人物に見えてしまうことがあります。だから、「第三者の視点では、絵地図がどのように見えているのか?」と気になることも多いです。

「経験」を伝える手段

毛利:
坂本さんが話されていた「写真の中に人物が登場する方が面白い」という言葉が、非常に印象に残っています。世の中には、人物が写っている写真はごまんとありますが、それらの写真の多くは「自然や綺麗なものを中心にして、その中に人が写っている」というものばかりだと思います。でも、坂本さんの場合、大切なパートナーと一緒に写真を撮るのは、単に「人が写っているのが面白いから」だけではなく、道を歩く中で自分自身が感じたこと、つまり「移動の経験を伝えたいから」だと思うんですよ。

写真を見れば、「風景が綺麗」という当たり前の感覚を追体験することはできると思います。ただ、坂本さんが撮影された写真には、簡単に追体験できないものが数多く散りばめられている気がします。写真を見ると本当に楽しそうだと思いましたし、見ている側がインスパイアされるような感じがしました。

坂本:
私が写真に人物を登場させているのは、確かに「親しみやすいから」ということもありますが、「経験」を伝えたいからという理由でもありますね。私はブログ以外に、InstagramとTwitterのアカウントも運用していますが※、特にInstagramに掲載している写真は「インスタ映え」が狙えるようなものではないと思っています。普通は、旅の中の「良い瞬間」を捉えた写真を投稿すると思います。でも、私の場合、基本的には歩いた場所の順に写真を並べていますので、一見、地味に見える写真が多いです。

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また、Twitterの場合は「歩きながら自分の状況を呟ける」ということが面白いと思っています。しかも、他の利用者と繋がりやすいという特徴もあります。ブログにコメントするのはハードルが高いのに対し、Twitterでは、熊野古道を普段から歩いている人のように、自分と共通の趣味を持つ人たちと意見交換もしやすいんですよ。

ブログだと、後で記事にまとめて投稿しないといけないという欠点もあります。でも、Twitterであればリアルタイムで更新できますので、旅の途中で更新すると、ますます旅を楽しむことができるんですよ。そのような意味では、Twitterで呟くことは「旅の記録を積み上げている」ということと同じだと思います。

ただ、SNSに投稿すると、自分がいる場所を特定されるという心配もあります。私は夫と一緒に道歩きをしていますので、「何を食べた」とか「ここで昼寝をしている」とか、誰が知りたいのかと思うような情報も載せています。でも、同じような経験をされた人には共感できる部分もあると思いますので、ブログだけではなくSNSも、なるべく更新するようにしています。

宮津:
ブログの場合は「かつて経験した出来事の記録」になりますが、SNSの場合は「現在起こっている出来事の共有」になります。これはまさに、新しいメディアが持つ特性だと思います。この特性が、熊野古道を「古道」と言いながらも「新しいもの」に進化させているのかもしれません。

【5】道の面白さとは?

宮津:
これまで、植野さんと坂本さんには「歩くことの面白さ」を語っていただきましたが、今度は、歩くこと以外の「道の面白さ」についてお話を頂きたいと思います。例えば、道中でお祭りや大道芸のパフォーマンスが見られる、あるいは、美味しい食べ物屋さんがある。このような「移動の手段」以外の「道の面白さ」について、お二人はこれまで様々な場所を旅されていますので、ぜひご紹介いただければ嬉しいです。

日常に対する幸福感

植野:
「道の面白さ」というテーマで話すと、考えが無限に湧いてきそうです(笑)。旅をする中でいつも思うのは「朝起きて、食事をして、次の街まで歩いて、また食事をして寝る」という、日常の大切さを実感できるということですね。普段から生きるためにやっていることを旅の中でも繰り返していて、道そのものに「人生観」があるような気がしています。このシンプルな繰り返しが楽しくて、すごく充実した時間を過ごせています。

また、以前、スペインに訪れたときに、小さな町の祭りに参加したことがあります。確か、夏至をお祝いする祭りだったと思います※。この町に着くまで、私は6時間ほど地平線しか続いていない道を歩き続けていました。「自分は生きているのか、死んでいるのか」ということが分からなくなるぐらい、本当に何もない場所だったと思います。現地の天気も悪く、切ない気持ちになっていましたが、なんとか歩き続けていると地平線の先に町が見えてきました。徐々に暑くなってきたと思っていたら、町の中で祭りが開催されていることを知り、心の中がすごく明るくなったんですよ。余所者でも参加できるような感じのイベントでしたので、私もその中に入って、最後はお祈りをしました。とにかく心温まる時間でした。

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翌日、私は次の場所を目指して旅立ちました。道中、ふと後ろを振り返ってみると、先ほどまで滞在していたその町が、地平線の彼方に消えていったんですよ。昨日はこの町に出会えたけれど、この町もすぐ見えなくなり、自分自身も次に進んでいる。このような「過ぎ去るものへの切なさ」と「次への出会いの希望」を、旅の中で感じることができました。

また、祭りは「何かをお祝いする」、あるいは「何かに感謝をする」という目的で成り立ったものが多数だと思います。これは世界共通だと思いますし、旅の途中で訪れた町を歩いただけでも、祭りというものが人類に根付いた意味がすごく分かったような気がしました。

実は、「みそ汁とごはん」や「パンとコーヒー」のようなシンプルな食事が、道を歩いてきた後にはすごくありがたいんですよ。衣食住や睡眠が当たり前になっていることへの「ありがたさ」と「幸福感」というものを、五感で感じることができます。

旅をする中で、同じように道歩きをしている人と出会うこともあります。その日1日だけ楽しい時間を過ごした後に別れるのですが、その後また歩いていると、1ヶ月後に再会することもあるんです。海外の方だと言語の違いもあり、言葉の意味が分からないことも多いのですが、そんなことよりも、再会できたことが嬉しくてたまらないんですよ。お互いそれぞれの国に帰った後も、言葉は通じないけれどSNSで通じ合ってしまうという、こんな不思議なシンパシーもあります。改めて、「道」には面白い要素が詰まっているのだと思いました。

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坂本:
やはり、私にとって、旅の最大の楽しみは「食べること」だと思います。いつも食べることを楽しみにして歩いているような感じだと、夫とよく話しています。旅の中で「寝る、食べる、歩く」という基本的な行動をすることで体の調子が整いますので、健康にもいいんですよ。

また、歴史を遡ると、後白河天皇※(後の後白河上皇)は、京都から熊野に34回も訪れていたそうです※。ここまで繰り返し歩いた理由については諸説ありますが、「国家の安寧を祈って」ということが大義名分になっています。私たちも後白河天皇を目指して、熊野古道を34回歩くということにチャレンジしています。とはいえ、まだ3回目の挑戦で、まだまだひよっこなのですが(笑)。繰り返し歩く旅と、一度きりの旅では、楽しみもまた違ってくると思います。後白河天皇のようにたくさん歩いた人は、体が強くなり、パワーが溢れて、非常に健康的になるような気がしています。

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そして、「出会いがあること」も道の面白さだと思います。人と人との出会いだけではなく、道を繰り返し歩いていると、同じ場所に宿泊するということもあるんですよ。歩くたびに景色も変わりますし、それぞれの土地での楽しみがあるというのも、まさに「道の醍醐味」だと思います。

旅と「豊かな経験」

宮津:
植野さんと坂本さんから、「道の面白さ」というテーマで、様々な旅の喜びや出会いについて語っていただきました。道を歩くことで「日常の大切さ」を再認識できる、あるいは、繰り返し歩くことで、以前とは違う「旅の楽しみ」を体感できるというお話がありました。

今、お二人がお話された内容について、ご自身が研究されていることと関連づけながら、毛利先生からお話を頂ければと思います。

毛利:
ある意味「羨ましい」と思って、お二人のお話を聞いていました。現在はコロナ禍で、特に東京では、外に出ることもままならないんですよ。常に閉じ込められているような感覚がしており、私は「移動することに対する必要性」のようなものを感じています。だから、お二人とも「道を旅した」という経験が豊かで、本当に羨ましいです。

「旅」といっても、そのあり方は多種多様です。例えば、観光地に行って有名な場所を見る、美術館を訪れる、買い物をするということが、一般的な旅のスタイルだと思います。「ある場所を目指して時間をかけて移動する」ということは「豊かな経験」だと思うのですが、多くの人は、このようなことを経験していないような気がします。そういう意味では、植野さんと坂本さんは、一般的に言われている「旅」とは例外的な旅もされているのかもしれません。「時間をかけてある地点に移動すること」、これは単に移動しているだけにも思えますが、実は「移動の中で様々な経験をしている」ということだと思います。

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また、祭りに関して言えば、祝祭的なことは神社の境内などで行われることが多く、神輿を担いで「ある場所からある場所へ移動する」ということが発生します。この「移動の経験」は、祭りに参加した人々と、地域のコミュニティーのような共同体が結びついて生まれたものだと思います。つまり、我々が知っている単なる道ではない、人々の経験を基にして成り立った「近代化された道」もあるのではないでしょうか。

熊野古道は「道」として位置づけられていますが、訪れた人がそれぞれ違う経験をして帰っていくというのが、熊野古道本来の魅力なのかもしれません。そのような意味でも、国内外問わず、様々な道を歩いて豊かな経験をされてきたお二人は、まさに「道歩きの達人」だと思います。

「籠もる牟婁」と「ひらく紀南」

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宮津:
毛利先生、ありがとうございました。

最後に「道歩きの達人」という話がありましたが、本当の意味でパッケージされていない旅行や、移動の面白さが分かる内容だったと思います。本日のケミストリー・セッションが、我々が「移動の手段」だと思い込んでいる道や、「移動」が持つ意味について考え始めるきっかけになればいいですね。

冒頭でもお話がありましたように、紀南ケミストリー・セッションは「紀南アートウィーク」に向けて、紀南の歴史、文化、風俗を多様な視点で見直し、再発見するためのトークセッションです。また、紀南アートウィークのテーマでもある「籠もる牟婁」と「ひらく紀南」には、「一見、矛盾することが同時に行われている」というような意味合いがあります。このテーマに対して、毛利先生から簡単にコメントを頂けますと幸いです。

毛利:
すごく面白いテーマを選ばれたのではないかと思っています。実は「開くこと」については、割と議論が行われているんですよ。「グローバル社会の中で、世界中からどうやって人を集めるのか?」とか「多様性を確保するにはどうすればいいのか?」というような内容ですね。恐らく、観光地に限らず、企業、大学、都市など、様々な場所で議論されていることだと思います。しかし、単に開放的であるだけでは何も起きず、似たような政策、文化、授業という「特徴のないもの」ばかりが生まれてしまいます。結局、不特定多数に向けて開いているだけの場所には、誰も魅力を感じないと思いますね。

紀南という地域は、外から見るとすごく情報が少ない「閉じた空間」のように感じます。残念ながら私はまだ行ったことがないのですが、紀南地域は日本の中でもブラックボックスのような「見えていない空間」なのではないかと、ずっと考えていました。

私は関西出身で、過去には兵庫、京都、大阪に住んでいたことがありますが、和歌山というエリアは、自分にとっては見えていないエリアでした。しかし、改めて考えてみると、「見えていない空間」であることが和歌山の最大の魅力であり、人を惹きつける要素になっているのではないかと思うんですよ。紀南地域もまた「籠もる場所」として、ある種の関係性を絶ち、ローカルなネットワークの中で、地域の人々が自前の文化を作ってきたのだと思います。グローバルに繋がるのがいいことなのかは分かりませんが、紀南という地域であれば、特殊な経路で外との繋がりを形成していけるような気がします。

本日のトークセッションのテーマでもある「道」に関連づけて言うと、本来、熊野古道は「籠もる場所」だと思いますが、近年、急に外に開けている感じがするんですよ。SNSやブログのような「新しいテクノロジー」で熊野古道の情報が世界中に発信され、外からの観光客が増えたことも、理由の1つだと思います。もちろんそれだけではなく、植野さんと坂本さんのような「道歩きの達人」が、熊野古道という「閉鎖的な空間」と外の世界を繋げているような感じもします。そのように考えると、熊野古道という道をめぐって、非常に面白いダイナミズム※が働いているような気がします。

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【6】質疑応答

森重:
宮津先生、毛利先生、植野さん、坂本さん、ありがとうございました。

本当に面白いお話を聞かせていただきました。

植野さんと坂本さんには、道を歩かれた実体験に基づくリアリティのあるお話を、様々な観点からお話しいただきました。毛利先生には、より客観的、学術的な観点から、非常に分かりやすい解説をしていただけたと思います。

私個人としては、道は「場所と場所を繋ぐもの」だと考えていました。皆様のお話を伺って、道は「人と人を繋ぐ」という役割を持っているのではないかと感じております。特に、歴史のある熊野古道においては、過去の歴史から未来も含めて、時代を繋ぐものでもあるような気がしています。また、熊野古道は蘇りの聖地として、道としても特別な存在なのではないかと思いました。

それでは、ここからは質疑応答の時間とさせていただきます。本日のトークセッションの中で行われた「道」に関するお話や、登壇者の方々のプライベートな部分まで、皆様、遠慮なくご質問いただければと思います。

質問1:熊野古道の初心者向けルートは?

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まず、1つ目の質問です。「初心者にとって、熊野古道はどこから歩くのがおすすめでしょうか?また、何日ぐらいかけた方がいいでしょうか?」というご質問を頂いております。

坂本:
私が初心者におすすめしたいのは、本宮町にある「発心門(ほっしんもん)王子※」から熊野本宮大社まで約7kmのルートです。こちらは熊野古道のゴールデンルートであり、初心者に優しい道ですので、比較的に歩きやすいルートになっています。

なお、「7kmも歩くのはきつい」ということであれば、同じく本宮町にある「三軒茶屋跡※」から熊野本宮大社を目指すのもおすすめです。この場所からであれば、歩いて40分ほどで熊野本宮大社に辿り着くことができます。少しでも歩いてみたいということであれば、三軒茶屋跡から歩いてみるのもいいと思います。

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※参考 発心門王子~熊野本宮大社:三軒茶屋跡・九鬼が口関所跡(田辺市熊野ツーリズムビューロー)

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森重:
坂本さん、ありがとうございました。

熊野古道は本当に長い道ですので、どれぐらいの時間をかけて、どのようなルートを歩きたいかということを考える必要がありますね。ぜひ皆様も熊野古道にお越しいただいて、できれば全ての道を制覇してほしいと思います。

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森重:
続いて2つ目の質問ですが、先ほどの質問と少し似ております。「初めて歩くときのおすすめの古道はどこでしょうか?」という質問ですが、こちらはいかがでしょうか?

坂本:
先ほど紹介したルート以外では、那智勝浦町にある「大門坂※」を歩くのがおすすめです。こちらの場所は観光スポットとして非常に人気があります。また、それだけではなく、那智の滝※や熊野那智大社※を目指しながら、この道を歩かれる観光客の方が多いです。大門坂は「苔の生えた石畳」が非常に有名で、杉林の中を歩いていると森の空気を感じることができます。初めて歩かれる方は、こちらがおすすめだと思います。

※参考 日立 エアコンリモコン RAR-1L4
※参考 大門坂(わかやま観光:和歌山県公式観光サイト)
※参考 那智の滝(わかやま観光:和歌山県公式観光サイト)
※参考 【全巻セット】さんすうだいすき 全10巻

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また、熊野古道初心者の方は、ガイドさんを付けるのもおすすめです。初心者の方は、どこを歩けばいいのか分からない、あるいは、熊野古道についてよく知らないということも多いです。未だに、私自身も熊野古道について知れば知るほど、訳が分からなくなります(笑)

森重:
坂本さん、ありがとうございました。

「平安衣装を着て大門坂を歩く」という体験もできますので※、ぜひ皆様、大門坂にもお越しいただければと思います。

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質問3:絵地図の作成にかかる時間は?

森重:
3つ目の質問は「植野さんが描かれた絵地図は、1枚の作成にどれぐらい時間がかかるのでしょうか?」ということですが、こちらは植野さんにご回答をお願いいたします。

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植野:
サイズや色の有無にもよりますが、私がよく仕事のご依頼を受けている「A3サイズのカラーの絵地図」についてお答えいたします。A3サイズのカラー1枚で、最低2週間で完成します。2週間のうちに、調査と作図、チェックを行っています。納期が2~3ヶ月ということであれば、3枚同時にご依頼いただくこともできます。

ちなみに、今写っている絵地図は15枚同時に依頼が来たときの作品ですが、こちらはなんと、3日で仕上げました(笑)。これは本当に異例の速さで、普通は「3日で描けます」とは言いません。急遽お受けしたご依頼でしたが、他にお受けしていたお仕事がなかったため、なんとか1枚あたり3日で仕上げることができました。

森重:
植野さん、ありがとうございました。

「3日で仕上げた」と話してしまうと、今後は「3日でお願いします」という依頼が来てしまいそうですね(笑)

植野:
どうしてもという場合であれば、要相談でお受けします(笑)

質問4:絵地図の中で一番気に入っているものは?

森重:
4つ目も、植野さんへの質問です。「ご自身の作品の中で一番気に入っている絵地図は、どのようなものでしょうか?」ということですが、こちらはいかがでしょうか?

植野:
私が一番気に入っているのは「熊野巨大図会(ずえ)」です。こちらは、私が今までに描いた中でも最大規模の作品で、縦横約2mというサイズの絵地図です。紀伊半島はもちろん、大阪府や愛知県までもが描かれている巨大な図会になっています。以前、田辺市で「熊野巨大図会展」を開催した際には、紀伊民報さんで記事にしていただきました※。

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出典:「熊野巨大図会展@三重県熊野市木本町・紀南ツアーデザインセンター」~ 開催(、旅のアトリエ ちきゅうの道、Facebook)
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植野:
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森重:
植野さん、ありがとうございました。

本当に素晴らしい作品だと思いますし、「熊野巨大図会」には植野さんの魂が込められているような気がします。

質問5:道は何のためにあるのか?

森重:
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毛利:
非常に難しい質問ではありますが、実は、私が『ストリートの思想』を書いたときに、似たようなことを書きましたので、当時のことを思い出しながらお話しします。

我々は「道は、何かの地点と地点を結んでいる」と考えがちですが、実際は逆だと私は考えています。最初に道が存在しており、移動してきた人たちが滞留した場所が、村や共同体として形成されていった。このように考えた方が史実としても正しいですし、社会のあり方や思考のあり方が反転するように思います。だから、「熊野古道も昔から、移動するための場所として存在していたのではないか?」という気がします。道、あるいは「移動すること」は非常に重要なテーマだと思いますし、実際に熊野古道を歩きながら考察してみたいと思っています。

森重:
毛利先生、ありがとうございました。
非常に合点のいく回答で、先生のお話をますます伺ってみたいと思いました。
それでは、時間になりましたので、質疑応答の時間を終了いたします。
以上をもちまして、第3回 紀南ケミストリー・セッションをお開きとさせていただきます。
皆様、長時間本当にありがとうございました。

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ありがとうございました。

毛利:
ありがとうございました。

植野:
ありがとうございました。

坂本:
ありがとうございました。